地震大国といわれる日本では、防災への取り組みは非常に重要な課題となっています。
室蘭工業大学では、建物の耐震化技術の確立やAIを活用した被災地救援、
地震の素因となる地盤の調査や復興モデルの確立など、様々な防災分野の研究を行っています。
ここでは災害に関係する研究を行う4人の先生に対談形式でお話を伺いました。
董教授:私は人工知能技術やIOE(インターネットオブエブリシング)を社会に展開していくことを主題として、主に災害が起きた時に瞬時にかつ低コストで通信インフラ網を提供する技術の研究をしています。
2018年に起きた胆振東部地震では発電所のブラックアウトにより電波基地局がダウンし、インターネットサービスが停止しました。こういった状況に対して、私たちは被災地に通信インフラを提供する「天地人」というシステムを開発しました。
これはドローンに通信設備を積んで被災地に飛ばすことで、およそ10km~30kmのエリアにインターネットサービスの供給が可能になる技術です。これを活用すれば安否確認も含めて、被災地の中と外を繋いで情報の導線が確保できます。
すでに実証実験による性能評価も行っており、各自治体とも連携して実用化に向けて研究を進めています。
高瀬准教授:防災という漢字は「災害を防ぐ」と書きます。ところが自然の力は大きく、人間の力では防げない部分があります。であれば災害が起きた際にいかに被害を最小限に減らせるかが重要で、これを「減災」と呼びます。
私はコンクリート構造物の耐震性能を研究していますが、近年では災害が起きて建物の構造自体は無事でも、間仕切り壁など荷重を負担しない壁や天井といった、いわゆる非構造部材が大きなダメージを受け継続使用性に問題が生じ、場合によっては取り壊さざるを得ないケースなどがあります。これでは建物を使用している人にとっては壊れているのと同じで、そういった損傷や被害カテゴリを細分化して、設計段階で地震規模に応じた損傷度合いを計測でき、その際の復旧プロセスも含めて使用者が理解できるシステムが必要になると考えています。
将来的には、地震による損傷だけでなく、凍害などで劣化した建物も効果的に補修・補強し、持続的に建物を使用できる技術も確立したいですね。
川村教授:先ほどお話に出た減災と防災という考え方の違いは凄く重要だと思います。私は地盤工学が専門で、例えば2018年に起きた北海道胆振東部地震では、厚真町の周辺の斜面の崩壊は降下火砕堆積物が一つの素因であったことが明らかになってきました。北海道は、特に火山灰質土に覆われた地盤が多く、今後も減災にむけて、そこに工学的なメスを入れていく必要があると思っています。
研究が進めばハザードマップなどの情報をより鮮明化し被害を抑えることもできますし、災害に対してよりプラスアルファの対策が取れるのではないかと思っています。工学は震災や風水害に対して貢献してきた部分もある一方で、力が及ばなかった部分もある。今後はこれから来る災害にどれだけ免疫力を付けられるか、というようなアプローチも必要になると考えています。
吉田准教授:私は主にごみの収集から処理処分までを含めた廃棄物工学を専門に研究していまして、防災という観点から関わっているのは災害廃棄物ですね。
あまり災害のゴミについて詳しく知らない方も多いですが、2011年に起きた東日本大震災のような大規模な震災に遭うと、普段処理している10年分ほどのゴミが1日で出て、処理にかなりの年数が掛かります。
また廃棄物が処理できないとインフラを含めた復興支援も遅れますし、ゴミの仮置き場から火災やハウスダストの飛散といった二次被害も発生します。問題は災害を受けていないところがどう準備するか。
私の場合、防災・減災というよりも被災者支援という視点で災害廃棄物を上手く処理できるシステムを作っていくことが必要だと思っています。
董教授:防災分野以外では情報分野と医療分野の連携を一つの方向性として進めています。5Gの登場で世の中はより大容量の情報をハイスピードで伝達することが可能になります。
例を挙げると5Gを使った遠隔医療などで、医療系の様々なデータを人工知能に解析させることで、癌の治療などは疑いのあるものだけを医師に診てもらう。そうすると医療現場の人手不足にも寄与ができます。さらには、すぐに医師が駆けつけられない災害現場でもAI×5Gによる医療支援が役立つと考えられます。
高瀬准教授:建築の分野でも最近はAIを活用する動きがあります。1981年の建築基準法の改定前と後では耐震性能も違うため、建物が改定前と後どちらに建てられたか、さらにはどれくらい開口がある建物なのかなど、耐震性能に関わる情報をAIに判断させ、そして最終的には地震が起きた時に衛星写真、もしくはドローンなどで空撮した写真から各エリアの地震被害推定やハザードマップの作成などに寄与できればと思っています。
川村教授:私たち土木工学分野では、甚大化している災害にどのように立ち向かうかということが重要な課題となっています。それを考えると、まずはインフラの強化、いわゆるハード対策で、次に避難手法などのソフト対策、さらには防災教育などの啓蒙活動が必要です。それらバランスよく議論しながら国や自治体などと連携しながらアプローチすることが重要と考えています。
吉田准教授:広域災害が起きた時、直後の一週間以内は被災地に必ず混乱が生じます。例えば道路の浸水被害だとか渋滞情報などが取得できなければ、避難や救助も遅れる。やはり情報インフラは大事で、そういった意味でも董先生のドローンやAI技術などを活用して被災レベルの評価や、それに伴った救済支援の優先順位などが付けられるようになればと思います。