研究インタビュー特集 「素材・リサイクル」
× 「室蘭工業大学」

鉄鋼、造船、機械など各製造メーカーが拠点を構える「ものづくりのまち」室蘭市は、北海道内でも重要な製造拠点の一つです。
室蘭工業大学では、各メーカーと連携して21世紀の日本を支える新素材や製品の開発、
さらに今後需要の高まりを見せる省エネルギーに関する技術開発やシステム構築にも努めています。
今回は素材やリサイクルの研究に携わるお二人の先生にお話をお聞きしました。

MEMBER

教授
清水 一道シミズ カズミチ
研究分野 機械材料学・トライボロジー・設計工学・材料力学
教授
桃野 直樹モモノ ナオキ
研究分野 固体物理・超伝導(特に銅酸化物高温超伝導体)
01 清水先生は2020年に日本鋳造工学会の新会長に就任されましたが、
主にどのような研究をされているのですか。
持続可能な社会を目指し
分野の垣根を越えて取り組む

清水教授:私は、「耐摩耗材料」に関する研究をしています。摩耗は金属が他の金属などと擦れ合うことで、表面が磨り減る現象です。金属の摩耗は、機械の中の歯車、あるいは自動車のブレーキなどが動作や停止する度に発生し、摩耗ができない状態になるとその部品にとっての寿命となります。そこで摩耗はしますが、その耐摩耗性の高い素材のことを「耐摩耗材料」と呼びます。部品の寿命を伸ばすことは、部品の交換に必要な人的コストの削減など費用対効果を高める上で非常に重要であり、従来の材料よりも強度の高い新素材の開発が日々求められています。
私の研究室では、企業が求める新しい素材を開発するとともに、開発された新素材が安全基準を満たすか、また、従来の素材より、部品の寿命を伸ばすことが可能かどうかの評価を行っています。さらに、企業と連携して部品の製造に関するアドバイスも行っています。

リサイクルの分野の研究で言いますと、シップリサイクルに関する技術提供も行っています。日本では多くの船舶を造船していますが、解体は人件費等の問題もあり海外で行われています。
しかしシップリサイクル条約の批准に伴い、今後は国内での解体に回帰する必要があります。船舶は98%がリサイクル可能で、鉄鉱石から製鉄した場合と比較して、使用するエネルギーが約3分の1とコストの削減にもつながる非常に良質な鉄です。シップリサイクルは、国内産業の製造コストの低減にも繋がる一つのチャンスでもあります。
私たちはNPO法人「シップリサイクル室蘭」を設立し解体に必要な機材の素材開発はもちろん、安全で環境にやさしい先進型シップリサイクルシステムの確立を目指して活動しています。

02 ご自身の研究や専攻分野の将来について、
今後の展望などがあれば教えてください。

清水教授:リサイクル可能な素材を活用して物を製造し、さらにその寿命を延ばしてリサイクルに必要なエネルギーの削減につなげることは、日本の製造業界にとって今後の大きな課題となります。
現在、2030年に向けたCO₂排出量削減計画に伴い製造分野の在り方も徐々に変化しています。特に鉄鋼分野は、国内の産業分野におけるCO₂排出量の割合が約4割と非常に大きく占めています。
従来のCO₂排出量の高い高炉による製鉄から、現在は水素還元や電気炉による製鉄に切り替える動きも出ていますが、電気炉は大量に電気を使用するため、同時に電力の確保にも努める必要もあります。

このことから、機械分野だけではなく、素材分野や電気分野、情報工学分野などとの連携が不可欠になっていきます。これらの課題に対して私の研究室も含めて室工大全体で取り組んでいきたいですね。

03 桃野先生の共同研究が「Nature Physic」に掲載されましたが、
どの分野で貢献されたのでしょうか?
エネルギー問題解決に繋がる
室温超電導を目指して

桃野教授:私は、特定の温度以下で電気抵抗がゼロとなる「超電導現象」を発生させる物質・材料の研究をしています。超電導は現在、医療のMRIやリニアモーターなどに使用される「超強力電磁石」の電線として利用されています。超電導物質は電気抵抗がゼロという特性から、エネルギー損失がない究極の省エネルギー材料とも言われていて、例えば発電所からの送電線を超電導電線に置き換えることで約5%のエネルギーが節約できます。

しかし、超電導材料の冷却には高価な液体ヘリウムが用いられるため、超電導の利用にかかるコストが非常に高いという問題があります。そのため、従来よりも圧倒的に高い超電導転移温度を有し、液体ヘリウムよりずっと安価な液体窒素で超電導現象が起こる「高温超電導物質」の研究が進められています。
私は銅酸化物の高温超電導体をメインに研究していますが、その研究には良質な単結晶が不可欠です。私たちの研究施設では、赤外線イメージ炉と呼ばれる、光を集めることで2000℃以上の高温下で物質合成できる装置で良質な単結晶を作製しています。私たちが作る単結晶は、海外の大きな研究グループにも実験試料として提供されるなど、国際共同研究にも貢献しています。

最近、ヨーロッパやアメリカの強磁場下での超電導を研究するグループによる国際共同研究に、私たちが作製した銅酸化物の単結晶を提供しました。その研究で、銅酸化物超伝導体に関する新たな発見があり、成果をまとめた論文が2020年に国際学術誌である「Nature Physic」に掲載されました。

04 ご自身の研究や専攻分野の将来について、
今後の展望などがあれば教えてください。

桃野教授:高温超電導体の発現メカニズムの解明に貢献することです。
現在、銅酸化物の高温超電導のメカニズム解明は、かなり目指すところまで進んでいるのですが、まだ完全な解明には至っていません。液体窒素は液体ヘリウムに比べるとコストが安いですが、最終的な目標は室温で何もせずに超電導を起こす「室温超電導」の実現です。2020年に室温で超電導を起こす物質が見つかったのですが、超高圧下でしか実現しないなど、まだまだ課題が多いのが現状です。
私は素材の研究を通じて1気圧下での「室温超電導」の実現に貢献していきたいと思います。

05 これから室蘭工業大学への入学を希望する学生へ
望むものを教えてください。
好奇心と地道な努力が力に
自分の好きを社会に生かして
清水教授:研究を好きになれる学生です。工学の実験には計算が必要なので物理や数学が得意な学生は向いていると思うのですが、研究が好きでないと継続は難しい。工学は才能より地道に努力したことが形になる学問です。室工大にきて、自分の好きを見つけて工学のプロフェッショナルになって欲しいですね。
桃野教授:自然科学に興味を持てる人は、理工学研究の素質があると私は考えています。飛行機は鳥の飛び方を研究して発明されたように、理工学の発展には自然界の当たり前を解明することが不可欠です。自然を理解して素材や材料を研究し、将来、科学技術や社会の発展に貢献したいと考える学生に来ていただきたいですね。
※内容は2020年12月にインタビューしたものです。