カロリーベース食料自給率全国1位、生産額ベース食料自給率4位と日本の食糧生産における北海道の重要性は言うまでもありません。
室蘭工業大学でも企業と連携して、ロボット栽培技術や、AI(人工知能)を活用した温室栽培の自動制御技術、
また食品の機能性を高める研究等を行っています。
ここでは食農に関係する研究を行う2人の先生に対談形式でお話をお聞きしました。
渡邉准教授:私は、最適化やデータマイニングに関するアルゴリズムを専門としています。特に、最適化の中でも「多目的最適化」と呼ばれる複数の基準を考慮した問題に対する解法の開発、結果のマイニング方法について研究しています。
他にも、低コストで高品質な生産環境モデルの最適化など、企業のニーズに合わせた解の分析・提案も行っています。食農の観点で関わっているのは、野菜の施設栽培におけるモデル作りです。室工大が包括連携協定を結んでいる企業では、事業の一環としてトマトの栽培を体育館が2~3個入る規模のガラスハウスで行っています。
スーパー等に出荷するトマトは、数週間前に契約した契約数より多くても少なくてもロスとなるため、正確な収量予測が求めれます。また、広大な農園内の状況を正確に観測し,その状況に合わせた適切な栽培をどのように行うかという問題があります。共同研究では、こういった収量予測,状態推定,栽培管理についてAIやIoTの技術を活用しながら取り組んでいます。
徳樂教授:私の主な研究テーマは様々な病気の原因にもなるタンパク質凝集の研究です。例えばアルツイマー病の原因は、脳内で「アミロイドβ」や「タウ」というタンパク質が凝縮することで神経細胞死が引き起こされるのですが、これらのタンパク質がどのように凝縮し神経細胞が死ぬのか、どうすればそれを抑制できるのか、独自に開発したバイオナノイメージング技術とAIを用いて分析しています。
さらに生活習慣病の原因となる食べ物の分析や、逆に特定の病気を抑える機能性を持った食品の開発を企業と連携して進めています。渡邉先生はトマトの生産モデルで、私はトマトの付加価値を高めるための機能性の向上と、それぞれが異なるプロジェクトに携わっているのですが、定期的な打合せなどを行い連携して研究を進めています。
渡邉准教授:今農業王国と呼ばれる北海道ですが、生産者の方の平均年齢は60代と現状は高齢化が進み、10年後、20年後を考えると農作物を少人数でも安定して収穫できる環境作りは急務だと私は考えています。
そういった意味で、露地栽培と比較して生育環境が安定している施設栽培の研究は、未来の北海道の農業を支える重要なプロジェクトだと考えています。
過去を含め現在も野菜の収穫は、栽培責任者であるグロワーの目や勘など経験に頼るところがありました。そこで我々は彼らの持つノウハウをAIで分析し、気温や湿度、日光量や肥料の調整などを学習させ最適化することで、少人数でも収量が多く品質の良い作物を収穫することが可能な生産モデルの構築を目指しています。
徳樂教授:機能性の高い作物を原材料にした加工品を摂取し、健康を維持することは、これからの社会で益々関心を集める分野だと思っています。収穫量や品質の良さは勿論ですが、「機能性を高めることで健康に繋がる」という商品の付加価値を付けることも、北海道の農業の価値を高める上で重要だと思っています。
栽培のプロであるグロワーの方は、トマトの調子によって肥料の必要量を変えるなどして成長をコントロールしています。その部分に関しては渡邉先生の研究分野ですが、私はストレスをキーにして、栽培環境に負荷を与えた時にトマトがどのような機能性物質を出すか興味を持っています。機能性といっても効果は多岐に渡りますが、その分析にAIを活用することで企業が目的とする機能性を持つ農作物の開発スピードは今後さらに加速していくと思います。
渡邉准教授:私の研究分野でいうと、機器の発達やIoT技術の発達に伴いこれまでAIを活用しても計測・分析に時間やコストがかかる内容でも、現在は低いコストで素早い計測・分析がしやすくなりました。
現在AI技術の分野では、機械が自動で学習し答えを導き出す「ディープラーニング」が注目されていますが、何故その答えが導き出されたのかを説明できないなど活用への課題も残っています。
今後は予測結果や推定結果に至るプロセスを人間へ説明が可能となる「X(エクスプレイナブル)AI」という、機械学習モデルの発展が重要となり、その開発に努めたいと思っています。
徳樂教授:渡邉先生が仰るように、AIなどの技術の発達により数値化しづらかったものの可視化が可能になり、病気の原因の特定もしやすくなっています。
アルツハイマー病の研究でいうと、香辛料などに使われるシソ科の植物に「アミロイドβ」の凝集を抑える効果があることが企業との共同研究で分かってきました。さらに、アルツハイマー病と同様にタンパク質の凝縮が発症に関与するといわれるパーキンソン病やリウマチ、糖尿病などにも応用範囲を広げているところです。
今後は可視化技術をより発達させていき、病気の原因の特定に努めると共に、北海道で育てられる食物の中で効果的なものを発見し、より機能性を高める研究をしていきたいですね。