平成28年10月7日に空閑学長が経営協議会学外委員と対談を行いました。
国立大学法人室蘭工業大学長 | 空閑 良壽 |
学校法人浅井学園北翔大学名誉教授 | 相内 眞子 |
北海道経済産業局長 | 児嶋 秀平 |
(株)北海道二十一世紀総合研究所代表取締役会長 | 檜森 聖一 |
空閑: 本日は本学のブランド戦略について、いろいろご提案いただければ大変ありがたい
です。早速ですが、今、本学の置かれている現実的な課題として、18歳人口のこと
を最初にお話ししたいと思います。本学は平成21年度に学部の改組をいたしまして、
入学志願者は一度少し下がりましたがその後は順調に増えてきていて、今年の4月は
志願倍率が平均で3倍を超え、かなり順調に推移をしております。18歳人口はここ
数年は120万人を保っており、平成29年くらいから減少を始め、15年かけて
100万人を切るという状況です。現在の大学進学率は50パーセントなので、大学
進学者は60万人から50万人に減少するということで、かなりの大学が消滅するの
ではないかと言われています。
そのような中で本学は先ほど申しましたように、最近は比較的順調に志願者を集める
ことはできていますが、実は北海道内の志願者は減少傾向にあります。もともと本学
は8割くらいが道内からの進学者でしたが、道外志願者が2割から3割に増えたこと
で、道外からの志願者の獲得が進み始めています。それと、まだ少ないのですけれど
女子学生も増加しておりますので、これから日本全体の志願者の減少への対策を考え
るうえで、道外からの進学者と女子学生がキーワードとなってきて、そういう中で、
女性も含めた理工系人材の育成、活躍できる場の確保ということも含めて、社会の協
力も得ながら、どのように学生を確保していくかが、本学の課題であると考えていま
す。
ブランド広報ということで、何か本学の目玉になるような特徴をアピールして、志
願者の獲得や共同研究等に結び付けていき、それを学生の就職にもつなげていくため
に、本当に心からPRできるようなものを作っていきたい、いくつかの特徴の中からそ
ういった本学の強みを作り出していきたい、と思っているところです。本日は、今後
本学がどのように生き残り、発展していくか、どう社会に貢献していくかについて、
広報の方法等も含めまして、様々なご意見をいただければと思っています。よろしく
お願いいたします。
相内: ブランドイメージの向上について、私立大学におりました者として少し厳しく申し
上げれば、ブランドイメージの重要性の認識は、今に始まったわけではなく、かなり
以前から大学の広報戦略の中で最重要と位置づけられてきています。なぜ大事かとい
うと、ブランドイメージの向上が志願者倍率の上昇につながり、倍率が上昇すれば、
優秀な学生を選抜することができる。つまり厳格な選抜ができるので、その結果優秀
な学生が確保される。優秀な学生が確保されると効率的な教育投資ができます。例え
ば多くの私立大学、特に少し偏差値が低くても頑張っている大学などでは、入学して
くる学生に対して初等教育のレベルから教育するということまでしていますが、その
プロセスを省略できるので、大学らしい効率的な教育投資が可能になる。当然ながら
教育の質は向上しますから、社会や企業の卒業生評価が向上し、学生、保護者、教職
員の満足度も高まる。すなわち、ブランドイメージの向上が好循環を創出するという
ことで、これが、私大経営のコンサルティングで強調されてきた「ブランドイメージ
戦略」です。ですから、室蘭工業大学が学生確保に向けた入試広報戦略としてブラン
ドイメージの向上に取り組むということは、大いに意義があるといえるのではないで
しょうか。
室蘭工業大学のミッションの再定義の中に地域に存在する意義、期待される役割を
認識し、推進するとありますが、まさにその通りと思います。このミッションを再認
識し推進するためには、学内におけるインナーコミュニケーションが重要になります。
つまり、教員だけではなく、職員を含めた全員が、大学のミッションやアドミッショ
ンポリシー、カリキュラムポリシー、ディプロマポリシーの3ポリシーを理解し共有
したうえで、大学が向かうべき方向性に関して、学内の共通言語化を図ること。その
ためには、教職協働の環境構築が不可欠だと思います。
COC+の地方創生推進事業教育プログラム全体については、地域に大学が存在する
意義を強調するためにも日常的な取組みが望ましいです。随分成功していらっしゃる
と思いますが、まだまだ不足ということがあれば、例えばインフォメーションキャラ
バンやサイエンススクール、テクノカフェなど、すでに実施しているものをさらに充
実させる。これらは地域住民、とりわけ子どもたちの科学マインドを刺激し、長期的
には科学大好き人間を育成する効果が狙える、あるいは地域人材の養成につながる可
能性を期待できると思います。それから、私はなかなか足を運ぶチャンスはないです
けれども、蘭岳コンサートなど学生による市民向けの多様なイベントも、地域に大学
があることの意義と喜びを市民が実感できる良いチャンスになっているのではないか
と思います。
児嶋: 具体的なアプローチとして地域に存在する意義、期待される役割を認識し、推進す
るという方針を示されましたが、これは地方に立地する国立大学にとって、非常に難
しいけれども、やらなくてはいけない大事なことだと私も思います。平成25年11
月に再定義された室蘭工業大学のミッションについても、我々この国の経済政策を進
める立場から言っても、非常に正しい、いい再定義のされ方だというふうに思います。
というのも、航空機分野というのは成長産業で、今後20年間で世界の航空機市場は
倍増するという風に予測されているわけです。国としてもこの航空機分野というのは
日本の基幹産業としてぜひ発展してほしいと思っている分野の1つです。
他方、北海道内の中小企業にとっては、いきなり参入するのは難しい分野ではある
のですけれども、長い目でみれば、経営の柱になり得る分野であり、国家的に見ても、
地域的に見ても可能性のある分野だと思います。ぜひ室蘭工業大学におかれては、困
難な面もありますが、道内の企業の航空機分野の参入ということも念頭におかれて、
このミッションを進めていただきたいと思います。それから、人材育成の観点でいい
ますと、室蘭工業大学の機械航空創造系学科が、航空だったら室蘭という形で道内だ
けではなく全国から優秀な人材を集めていただき、その卒業生を道外に流出させるの
ではなく、全国から有能な人材を集めて道内の企業に就職してもらうということが一
番理想的なことです。北海道の経済を発展させるのが我々北海道経済産業局のミッシ
ョンですから、その立場から、そういう人の流れになるということを期待したいと思
っています。
檜森: 私は常々室蘭工業大学の広報関係の文書を見させていただいて、非常に地道に地元
でよくやっておられると思うのですが、ちょっと残念なのは、魚がいないところでばっ
かりやっている。要するに札幌や東京では狭い範囲の方にしか知られていない。例え
ばものづくりに関しては道内では北海道大学を凌ぐというようなこと、あるいは希土
類の研究、あるいは航空工学のような研究をやっているということを、子供や学生だ
けではなく、例えば先般学長が北海道経済同友会の例会で講演されたように、全道あ
るいは東京で、室蘭工業大学の持っている、知る人ぞ知る、道内では唯一というくら
いやっておられる中身を、もっと遠慮せずにPRしていただきたい。せっかく札幌にも
事務所を持っているわけですから、室蘭地域だけではなく積極的に広報することで、
学生も集まると思います。ものづくりフェアなどを行いますと、室蘭工業大学の先生
の出してくるものは非常に話題になっている。そういうのを札幌で広報していないの
はもったいないことです。札幌や東京といったマーケットのあるところで広報するこ
とによって、大学のもっている得意分野や優位性がもっと強調されてくると思います。
少し遠慮しておられるのではないでしょうか。室蘭だけではなく近隣地域の都市開発
といったことにも積極的に大学が関わるような戦略を考えていただきたい。希土類の
研究センターやものづくり基盤センターなど、こんないい研究をしていて、しかも民
間と今後十分タイアップしていけるということは誇るべきものですので、もう少し積
極的にPRしてもよろしいのではないでしょうか。
空閑: 得意分野ということでは、本学の国際拠点化への取組としてグリーンイノベーショ
ンを打ち出していて、環境調和材料工学研究センターにおいて希土類の研究を行って
います。本学ではもともと希土類関係の材料を扱っている研究者が20名近くおり、
本学の教員が約190名ということからすれば割合としては非常に高く、全国的にみ
てもかなり多くの研究者が集まっておりました。新しい材料をつくるときは、無機系
のものだとエックス線回析により分析して、それが化合物リストに載るのですが、そ
れにより室蘭で造った新物質が世界で初めて同定できたことになります。それが室蘭
マテリアルということで、研究活動のベースとなっております。最近ハイブリット自
動車の材料に希土類を使用すると、出力も向上し性能も非常に上がるので注目されて
おり、希土類材料の有効利用を大学としてはかなり強く打ち出してきています。無機
材料に関してはロシアが昔から強いので、共同研究を行っており、国際拠点化もロシ
アから始めて、順次希土類の産出量の多い中国やアメリカなどに広げていきたいと考
えています。
もう一つの得意分野は航空宇宙です。本学では入試の会場を室蘭のほかに札幌、名
古屋、仙台に持っているのですが、実は今や志願者が一番少ないのがここ室蘭です。
名古屋や仙台の方がむしろ志願者が多く、そこから高校生を惹きつける一番の売りは
航空宇宙です。道外から引っ張ってきて道内に残すということは、地元に帰りたいと
いう学生も多いのでそう簡単ではないのですが、戦略の中では非常に重要です。
相内: 今、研究についてのご説明を伺いましたが、本当に力を入れてらっしゃるし、実質
的な成功は積み重ねておられるわけですから、関連業界での評価は大変高いと思いま
す。問題はそれを訴える力が必ずしも十分ではないということだと思います。成功に
伴う知名度の向上やブランド力の広がりを、広報戦略としてフルに活用できていない、
華やかさが足りないという印象です。
他の理系の大学でも、これまで主に男性が取り組んできた分野、重厚長大といわれ
る分野は、女子学生を惹きつけるのが難しいとされてきました。道民の半分は女性で
すけれども、なかなかそこに魅力が伝わらない。航空宇宙に関しても、白老実験場が
あり、非常に高速で飛ぶジェット機が開発されているのであれば、それがもっと目に
見えるかたちで、インパクトのある広報戦略を展開できれば、「ああ、室蘭工業大学
ってそうだったのね」という認識が道民の間に広まっていくのではないでしょうか。
希土類研究でも、私は大学で製作されたあのガラスが大変気に入っておりますが、あ
れも希土類ですよね。あの切子はきれいです。でもあれが室蘭工業大学の研究の成果
だとは、一般的にはあまり知られていないかもしれない。もう少し、華やかに色鮮や
かに発信できないものかと思ってしまいます。
空閑: あのガラスはよく見ると、光を吸収する波長が希土類の場合は違っていて、蛍光灯
で見るときと太陽光で見るときでは色が変わるんです。
檜森: 今、学長のお話を聞いていると、経済界が考える室蘭工業大学のイメージと、大学
が売り込もうとしているイメージが違うのではという印象を受けます。1番がグリー
ンイノベーション、2番が航空宇宙、3番がものづくりとおっしゃったが、我々経済
界の者には室蘭工業大学はものづくりを北海道の地元企業と組んで進めているという
イメージがすごく強いのです。全道でも、年に一回行われる経済産業省と経済界とで
実施しているものづくりの表彰を受賞しているメンバーの多くは、この室蘭工業大学
と組んでいるところです。そういう素晴らしいものを持っているのに地元経済界がわ
からないというのは問題です。希土類や航空宇宙の分野については、下請け業者が北
海道に在るわけではないので、広報戦略としては経済界の状況を考えて行わなくては
いけないのではと思います。外から見たイメージと、室蘭工業大学のイメージがずれ
ているので、効果的な広報ができないのではないでしょうか。日本の本当に素晴らし
い、グローバルに通じる技術を持っておられるのであれば、そういう広報のしかたを
していただきたい。そしてできれば希土類、航空宇宙だけではなく、ものづくりもや
はり、地元の企業もついていますので、一生懸命進めていただきたい。
児嶋: もちろん室蘭工業大学に経済界として期待するのはものづくりです。航空宇宙より
もう少しベーシックな素形材といった分野での技術開発や、研究というところだと思
います。それをしっかりやりつつ、先ほどおっしゃった得意な分野で日本のトップの
研究を確立するという姿勢も大切です。山の裾野は広いけれども頂も高くという気合
いを持って大学運営されるというのは大事なことだと思いますし、先ほど航空の話を
しましたが、レアアースの研究についても、日本の産業にとって、車や色々なハイテ
ク製品の中に必要不可欠なものです。日本の国内にはない資源ですが、その研究開発
を深めていくというのは、あまり他大学で手を付けていないのであれば、室蘭工業大
学が先行し、深めていくのはよいことだと思います。
空閑: 私もそうですが、教員で研究者としてずっといると、どうしてもアカデミックなと
ころに目が行きがちなので、大学の売りは何かというときにも、研究成果や論文数、
研究発表などの実績を強く意識してしまいます。本学は北海道地域への貢献を大きく
打ち出しているので、その地域に対する貢献度の高い研究であったり、ものづくりで
地域の産業に貢献するようなことを、我々自身がもっと評価するようにしなくてはい
けない。我々自身も意識改革をすることが必要だと思っています。
レアアースについての本学の研究の特徴としては、通常レアアースとは地球上でも
存在量が少ないもののことをいっており、ハイブリッド自動車などで必要とされるの
もジスプロシウムといった非常に貴重な材料ですが、こういったものはそれだけで採
ることはできなくて、同じ希土類でも余計なものが一緒にたくさん採れてしまいます。
本学はこの存在量が多い部分の希土類を有効利用しようという戦略で進めており、こ
の分野で世界を目指す研究をしたいと考えています。
檜森: その稀なレアアースというのを、一時中国が輸出を止めたことで、それに代わる材
料が出てきて、中国の会社が実際に潰れたという新聞のニュースも出ていましたが、
それが必要なくなるということはなく、レアアースはまだまだ研究価値や市場価値と
いう面で可能性があるということですか。
児嶋: 私も専門家ではありませんが、資源価格の低迷が続いているので、一時期よりもレ
アアースの入手困難性が弱まっているかもしれませんが、そうであってもレアアース
というのは日本にはない、世界に遍在している資源ですので、日本の国家戦略として
着々と研究を深める必要性はあると思います。
空閑: 中国が輸出制限した時に、国家戦略としてはその代わりになるものを作る研究を進
めてきましたが、本学はそうではなく、それ以外の割とたくさんある希土類のほうに
着目して、それを上手に使いましょうという方向性で研究を進めてきました。そうい
った他大学との違いも、本学の研究はここが他と違う、ここが凄いということが分か
るように外部に発信していかないといけないですね。
児嶋: この研究が進めば日本産業の強みになるでしょうし、北海道の企業にも関連しそう
ですね。北海道の経済の競争力も高まると思います。
檜森: 広報については、それほど難しいことではなく、遠慮しておられるのではないかと
思います。地元のことは当然大事ですが、広報というのは人のいるマーケットでもっ
と積極的にやらないといけません。先日空閑学長が北海道経済同友会の例会でなさっ
た室蘭工業大学でこういう強みがあって、こういう環境でというお話は、非常に評判
がよかった。もっと積極的に、室蘭工業大学として、例えば先ほどの3つの強みを大
々的に広報し、例えば札幌で、道経連だとか商工会議所、COC+事業を関連づけて、
卒業生が地元でもっと採用してもらえるよう働きかけるとか、そういうことをもう少
し組織的・戦略的に広報できるとよいと思います。せっかく蘭岳コンサートなど、大
学としていいことを色々やっていますが、室蘭の新聞には毎週出ていても、札幌の人
は見たことがないし、東京の人はもっと見たことがない。最近はCOC+の連絡所も札
幌の大通の真ん中に置いていて、これはやはりチャンスではないかと思います。事務
所を活用し、もっと聞きに来てくれという広報を札幌でやってもよいのではないでしょ
うか。
児嶋: やはり広報戦略はターゲットを絞り込むことが大事だと思います。ベネッセが全国
の大学生の保護者6,000人にアンケート調査をしたところ、大学選択で何を重視
したかという問いに対して、社会的知名度があるとか、就職先がいいとか、偏差値が
高いという回答は意外に割合が低くて、一番割合が高かったのは子供が本当に専攻し
たい学問があるかということで、特に父親よりも母親の56%ぐらいの人が重視して
いたという結果があります。したがって高校生の子供を持つ母親向けの広報ですね。
例えばあまり技術的な専門的用語を避けるとか、流行のキーワード、例えばIoTと
かAIなどというキーワードを盛り込んで母親が読むような媒体で広報するなどの工
夫があればよいのではないかと思います。
今社会で活躍している卒業生を通じて、本当に大学を受験してくれるような学生の
発掘につながるような卒業生に対する広報という視点もあるのではないかと思います。
室蘭市にとっても、優秀な頭脳を持つ若者が室蘭市に来てくれることはメリットがあ
り、市との連携にはお互い利害関係が一致している。例えば道内外の受験生をオープ
ンキャンパスなどで呼んでくるときに、ついでに室蘭観光もセットするなど、こうい
うところで住めたら、室蘭市で生活するのも悪くないなと思ってもらえるようなこと
を市とタイアップすることも有効なのではないかと思います。
空閑: 母親や卒業生向けの広報について、私もその必要性を感じています。学長になる前
が学術担当ということで、オープンキャンパス担当の副学長だった時期がありますの
で、オープンキャンパスには毎回出ていますが、やはり保護者の数が増えてきている。
生協にもお願いして保護者への対応をしていますが、大学自身ももう少し入り込んで
いく必要があるのかなという気がしています。
相内: 室蘭工業大学における女子学生の数や割合が今春の入学生をもって過去最高となっ
たと伺っております。いわゆるリケジョ(理系女子)はまだ少数で、進学先もやはり
薬学、生物農学系、看護医療系が多いですが、近年理学への進学割合も増えつつあり
ます。その意味で理工学部への改組を通して大学が理の要素を加えようとしているこ
とは、女子の志願者増につながる可能性があると思います。一方で理工系への女子の
関心を喚起するためには、若い時代に理学や工学に触れる日常的なチャンスが必要で、
例えば旭川で行ったという理系女子応援プロジェクトやサイエンススクール等の実験
プログラムは理系女子の獲得に有効な戦略と思われます。
華やかな広報という話を先ほどいたしましたが、例えば関西のある大学は、かつて
は相撲部で、今はまぐろの養殖などで非常に有名ですけれども、以前は男子学生が圧
倒的に多かったのです。それが学内をファッショナブルに改装し、パウダールームを
作るなど、女子学生の取り込み作戦に注力した結果、大学が非常に華やかなイメージ
に変わり、女子の志願者も入学者も増えたということです。どうすれば女子にアピー
ルできる理系の大学に変われるのか。女子学生にフレンドリーな室蘭工業大学という
イメージをどう出せるかが課題になります。
政府はポジティブアクションを提唱しています。要するに女性を優遇する制度です
けれども、法律上可能かどうかわかりませんが、例えば女子を男子に優先して入学さ
せるというような作戦まで立てないと、実際女子学生は増えないだろうと思います。
女性にフレンドリーなというのはなかなか難しいですが、室蘭工業大学では女子寮な
ども充実しているようですから、女子にとっての理工系学部選択の中では室蘭工業大
学が一番、というくらいの勢いが出てくるといいですね。
そのためには、イメージ戦略も大事ですし、先ほど保護者の話が出ましたが、保護
者の関心と信頼を得ることも重要です。女子生徒が大学選択を相談する相手は、先生
より母親であるといいます。また、多くの私立大学では、学業を含む学生の生活状況
について保護者に報告し、また意見交換を行うため各地で保護者懇談会を開催します
が、それは、保護者(出席者の多くは母親)と大学の信頼関係の構築が目的です。こ
うした試みが、理系の大学でも実現すれば、女子学生の増加に結びつくのではないで
しょうか。18才人口は減少の一途をたどることがわかっており、女子学生、留学生、
社会人の受け入れは、今後の入試戦略のなかで大きな比重を占めることは間違いあり
ません。国立大学・単科の理工系大学の中では、室蘭工業大学が一番女性にフレンド
リーだということをどう打ち出せるか、これを考えるとよいと思います。
空閑: 学部の改組を考えています。本学は今まで工業大学の工学部だったわけですが、そ
こに理の要素を融合させることを考えています。産業界のスピードが速くて、専門知
識を学んでも仕組みがすぐ古くなるので、もっとサイエンスのベーシックなところ、
数学、物理、化学、生物などに基づいた、基礎的な理学的な部分を強調して、そこに
情報学も付け加えた形です。相内先生がおっしゃっていた初年次教育について、本学
を含めどの大学でもそうですが、1年生の時の教育が非常に重要で、最初にきちんと
学生に教えると、割と順調に卒業までいくのですが、1年目でつまづいてしまうとな
かなかうまくいかない。そこで、各学科のエースの先生が1年生の担当にくるような
仕組みを作って、初年時教育にぐっと力を入れるような改組の構想を今進めていると
ころです。
相内: その広報に女性の教員が出てくるとよいと思います。広報を読ませていただいてい
ますが、女性教員として出てらっしゃるのが教授とかのレベルの方ではなくて、助教
とか助手の方だったと思うのですが。
空閑: 今はまだ女性の教授、准教授の数は少ないですが、積極的な女性教員が増えていま
すので、広報の部分でも活躍していただきたいと思います。
相内: 室蘭は鉄の街だというイメージがあるので、どうしても女性と縁が遠いという感じ
がするわけです。ですから、室蘭工業大学には理系をマスターされ、教育にも研究に
も熱心に取り組む女性教員がおられるということが広報されれば、イメージ戦略とし
てはずいぶん違ってくると思います。
児嶋: 女子高校生のための学校説明会はやられておられるでしょうか?
空閑: 旭川高専で女子学生向けの鋳造ものづくり教室を行っています。それは女子学生限
定ですね。
児嶋: 私の前職が警察でしたが、やはり男性が多い職場で、その中でも女性警察官を増や
すことが大きな課題になっていました。入った後どういう仕事をするのか、女性でやっ
ていけるのかということで躊躇する子がたくさんいて、やはり受験率は少なく、かと
いって枠を設けるわけにもなかなかいきません。優遇するわけにもいかないので、色
々な県の警察が工夫をするのですが、その一つが女性専用の就職説明会で、講師は年
齢の近い女性警察官で、私たちはこういう仕事をしているのだ、非常に楽しく生きが
いを持って世の中の役に立っているのだということを女性の口から女性の高校生、大
学生に対して説明をするという取組を始めています。何回もやっているわけではない
ので効果はまだわかりませんが、よい取組ではないかと思います。同じように協力を
得られるのであれば、女子学生に説明してもらうような説明会など、女性だけの説明
会を開くというのは、女性の受験生を増やすために効果があるのではないかと思いま
す。
檜森: 会社のリクルートは大体そうですね。入社2、3年目の社員が自分の出身大学に行っ
て説明会をします。
児嶋: それを男性ではなく女性にやってもらうということですね。
檜森: これは間違いなく女子学生が増えると思います。私は北海道科学大学の理事をして
いますが、そこは北海道薬科大学と一緒になったときに雰囲気が大きくかわりました。
男子学生の恰好もきちんとして、それはやはり女性が増えて雰囲気が変わったので、
食堂でご飯を食べるようになったようです。そうすると、見学会などで訪れた生徒が、
この学校は明るいという印象を受けるようになりました。それから食堂も変わりまし
た。私は理事会のときは食堂で昼食を食べていますが、きれいになって、メニューも
変わりました。今では定員もオーバーして、私学の間では独り勝ちといわれています。
相内: 私はジェンダー論、ジェンダー教育論が専門なのですが、女子中学生、女子高生に
なると、どうしても女の子っぽくいこうと思ってしまう生徒が少なくないのです。大
事なのは、小学生からいかに理系の分野に興味を持たせるかということなので、中学
生、高校生も大事ですけれども、もう少し年齢を下げて、小学生から中学の低学年あ
たりをねらって継続的にリクルートするという戦略はいかがでしょうか。その時だけ
というのではなく、時間をかけて徐々に理科の面白さに目覚めさせるということです。
檜森: 北海道教育大学付属小学校では、夏休みに女の子向けに金融教育の教室を行ってい
ます。医学部でも、工学部でも、経営の感覚がない人がいるので、そういう教育を小
学生の頃から例えば女の子だけに教えたりというのは面白いです。私どもの研究所で
は北海道教育大学と連携して金融教育の教科書も作りました。
児嶋: 入試広報戦略についてですが、道外の学生を視野に入れることは大事ではあるので
すが、やはり道内の高校生で道外の理系私立大学を目指す子もたくさんいると思うの
で、そういう学生に対し、道内の理系の立派な大学である室蘭工業大学というのも選
択肢の一つとして考えてもらえるような広報も、大事なのではないかと思います。例
えば、道内の高校生が東京で下宿して私立大学に通うのと、室蘭で寮に入って室蘭工
業大学に通うのと、生活費を含めて、どれだけ親の負担が違うのかという試算をして
みることも有効なのではないかと思いました。
相内: 繰り返しになるかもしれませんが、カテゴリーキラーになるということが大事だと
思います。差別化を図り、室蘭工業大学でなければできないことを打ち出していくと
いうことです。これまでのお話でいろいろと大学の特徴が出ましたし、そういう分野
で成功してらっしゃるということですから、カテゴリーキラーとしての差別化は成功
しているのではないかと思います。
それから、先ほど児嶋委員もおっしゃったように、募集エリアを拡大して、「室蘭
よいとことにかくおいで」みたいなところですね。確かに室蘭は過ごしやすいし住み
やすいし、色々な意味で首都圏に住むより環境的にも経済的にも優位であることは確
かです。ここを強調しながら、特色ある専門分野を学ぶことのできる、有数の国立工
業大学であることをアピールするのが効果的な広報のように思われます。
先ほど申し上げましたように、留学生の獲得とグローバル化への対応も大事ですが、
一方で地域にある大学であることを強調してアピールすることも大事です。加えて、
オープンキャンパスなどを活用して、受験生と保護者の大学選択のポイントを探る必
要もありますが、オープンキャンパスの後、参加者に対して何かフォローはされてい
ますか?
空閑: オープンキャンパスと、個別学力試験が終わったあとに、アンケートを取っていま
す。
相内: 例えば私立大学の多くは、オープンキャンパスの参加者に連絡先を記載してもらい、
次回オープンキャンパスの案内や、卒業生の就職状況、在学生の話などを載せたニュ
ーズレターを送るなど、継続的にフォローし、志願動機を高める努力をしています。
私立大学はそこまで熱心にやっています。
檜森: 小樽商科大学は単科大学ですが、北海道の経済界において、北海道大学よりも統計
上たくさんの優秀な人材を輩出していました。得意な分野についてきちっとみんなが
わかるように広報することが大切です。例えば、都銀の頭取が連続で小樽商科大学か
ら出ているんですよね。国立大学法人化以前は一期と二期で試験が分かれていて、一
期の北海道大学に合格しているのに二期の小樽商科大学に入学する人が結構たくさん
いました。室蘭工業大学も単科大学なのだけれども、室蘭工業大学が得意な分野、こ
れをやるなら室蘭にいかなきゃダメだと思えるもの、または学長が可能性があると考
えていることをマーケットにアピールすることにより、それらの分野を学びたいと思っ
ている意欲のある人が集まるようになるのではないでしょうか。
それはユニークさというか、そういう特異な、あそこに行けばこれができるという
ものを、室蘭工業大学もお持ちであればそれをブランド化して、もっと経済界や一般
の方に積極的にわかってもらうようにする戦略が必要であり、今まで地道にやってき
ておられるのにそういう部分で足りないところがあるのではないかと思います。
空閑: 本日は長時間にわたり、貴重なご意見をいただきましてありがとうございます。ブ
ランド広報の展開には、本学の特徴となる分野を、トップブランドとして売れるとこ
ろまで責任もって作り上げていく必要があります。本日ご意見いただいた中にも、す
ぐ実行できるアイディアもたくさんございましたので、参考にさせていただいて、ぜ
ひ北海道に室蘭工業大学あり、日本に室蘭工業大学があるんだということを見せられ
るように頑張っていきますので、今後とも色々とご指導いただければと思います。本
日はどうもありがとうございました。
(室蘭工業大学外部有識者との対談 2016年10月7日)
作成担当部局:総務広報課総務係